コーヒーはアメリカンという逃げ口

コーヒーの好みは人それぞれ。
ブラック、ミルクのみ、ミルクと砂糖。
ホット、アイス。

ブレンド、エスプレッソ。
みんなの好みに合わせて美味しいコーヒーを出そうと思うと、なかなか至難の業なのだ。

私の勤めている職場では、インスタントコーヒーを常備している。
社員はたまたまみんなブラックだ。
社長の好みで、このメーカーのこの銘柄、というのだけはとりあえず決まっているが、所詮はインスタントコーヒーなので、こだわりといってもそんなに大げさなものではない。

そんなわが社にお客様が来ても、インスタントコーヒーそれもブラック対応しか用意されていないので、必然的にお客様にもインスタントのブラックが供される。
出来れば、砂糖とミルクくらい沿えて出したいのだが、めったに来客のない職場に、普段使わないそれらのアイテムがあるわけもない。
それで、お客様もしぶしぶ提供されたインスタントコーヒーを、申し訳程度に飲んでいく。

そんな劣悪なコーヒー環境のわが社に、たまにお中元やお歳暮、もしくは手土産なんかで、豆をひいたコーヒーがもたらされることがある。
豆をひいたコーヒーすなわち、ドリップコーヒーである!
ドリップなんてほぼ全く飲まない我々は、淹れ方にまず全員がまごつく。
これはどうやって淹れたら正解なのか。

試行錯誤の上、コーヒーフィルターを茶漉しにいれて、紅茶用のポットにためて注ぐという方法を取ることにした。
でも、まずコーヒーの粉をどのくらい使えば何人分の適正なコーヒーになるのか、それすらも分からないので、とにかく適当、適当である。
なぜだか私がコーヒー係りになっていたので、全責任を私が負うことになってしまった。
結局良く分からないまま、コーヒー液の色の濃さで判断することにした。

往々にしてドリップというのは、インスタントより色が濃いので、結構出たと思っても、意外と味が薄かったりする。
もちろん、色の濃さで判断している今回も、薄いコーヒーになった。
何だか味が薄くてぼんやりしている。

と思ったが、そこはコーヒーに詳しくない連中の集まりである。
「アメリカンです」といって提供したら、誰も疑うことなく美味しそうに飲んでいた。
必殺「アメリカン」。
ナイスな逃げ口上である。

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